世界での蜂の子

現在の日本では、蜂の子などの昆虫を採取して日常的に食用とする地域は限られており、それ以外の場所では昆虫食に抵抗感を覚える人は少なくありません。
とはいえ蜂の子は、古くから現在にかけても積極的に採取をおこなう長野県などの山間部を中心に、郷土料理として親しまれている側面もあります。
世界的な視点では昆虫食の文化は決して珍しくはなく、むしろ食料資源に乏しい地域では、昆虫食を自分たちの食文化に取り込もうとする動きがあるほどです。
蜂の子は重要なタンパク源として、日本以外の多くの国で活用されている食材の一つでもあるのです。
この記事では、蜂の子を食用とする日本以外の主な国についてご紹介します。

蜂の子の食用の歴史

食用としての蜂の子に関する歴史で最古とされるものには、約150万年前に東アフリカで食べられていたという記録が挙げられます。
この中では遺跡で発見された人糞の化石の分析から、当時の人類が昆虫を食べていたとする研究報告がなされています。
なお、古代エジプト文明やメソポタミア文明では、ミツバチを飼育してハチミツを採取していたことが分かっており、特に古代エジプト文明の遺跡の壁画にはミツバチを煙でいぶして眠らせ、蜂の巣を採取している人の様子が描かれています。
古代からすでに人々が養蜂と思われる行動をしていた様子を伺える、貴重な記録といえるうえ、蜂の子は食料としての利用価値が高いため、ハチミツの採取とともにおこなわれていたと考えられているのです。

蜂の子を食用にする主な国

蜂の子を食用としている主な国には、東南アジア諸国や中国、メキシコやエクアドルなどが挙げられます。
ここでは、タイやベトナム、中国とルーマニアにおける蜂の子の食用について取り上げます。

東南アジア

昆虫食が一般的なタイやベトナムといった東南アジア諸国では、蜂の子をはじめ、タイではカブトムシの幼虫やタマムシ、ベトナムではクワガタなど甲虫類のほか、タガメなどの水棲昆虫が好んで食べられています。
タイ国内でも特に昆虫食が盛んなのは、東北部に位置するイーサーン地方で、この地域は海に面していないことや農業生産に乏しいことなどがその理由に挙げられます。
タイの蜂の子料理の中で人気なのは、バナナの葉で蜂の巣を包んで蒸し焼きにするものです。
ベトナムで昆虫食が盛んなのは、河川数の多さと水田での農業の実施が水棲昆虫の捕獲に適しているためと、大規模な食料不足に見舞われた歴史から、国内に数多く生息する昆虫が重要な食料としての役割を担っているためです。
また、ベトナム料理の特徴は味わいがさっぱりしていて、ハーブで独特の風味を加えることで後味がよくたくさん食べられる点といえますが、その分充足感を得にくいともいえるため、油でコクが強まる蜂の子などの昆虫食が好まれると考えられています。

中国

中国での蜂の子に関する記録では、約2000年前に著された『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』という薬学書の中にその効能についての記述があるなど、古くから薬用として珍重されてきました。
食用として蜂の子は、中華料理において現在でも一般的な食材の一つに扱われており、昆虫食が盛んなことで知られる地方には、四川料理で有名な雲南省が挙げられます。
同地方ではスズメバチやセミの幼虫を素揚げにし、塩を振って食べるのが一般的とされるほか、串焼きや串揚げなどにしても食べられています。
なお、中華料理は食材の下処理に時間をかけ、調理は火力を活かして短時間でおこなうのが最大の特徴です。
蜂の子の体内に残る内臓部分には、食糧となった昆虫の殻や排泄物などが含まれており、そのまま調理してしまうと後味や食感の悪さが残ってしまいます。
蜂の子の内臓部分を事前にきちんと取り除くことで、寄生虫の心配も避けられるため、下処理を丹念におこなう中華料理では、昆虫食においても理にかなっているといえるのです。
また、中国東北部など養蜂をおこなう地域では、オスの蜂の子をカリッとするまで油でよく炒め、塩を振るだけのシンプルな味つけが好まれているといいます。

ルーマニア

古くから蜂の子を薬用と食用にしている国には、ルーマニアも挙げられます。
養蜂の盛んなヨーロッパの中でも養蜂大国として知られるルーマニアでは、さまざまなミツバチの生産物を用いて治療をおこなう『アピセラピー』という方法が親しまれています。
『アピ』とはミツバチを意味するラテン語で、アピセラピーはヨーロッパを中心に伝統的な健康法として世界に広がった経緯があります。
また、ミツバチの幼虫である蜂の子は『アピラルニル』と呼ばれて健康食品の一つに位置づけられ、ルーマニアの北西部などで採取されています。
蜂の巣を覆うフタをそぎ落とし、内部に生息する蜂の子をすべて取り出して不純物を取り除いたものが、アピラルニル製品の原料となります。
オスの幼虫はメスよりも栄養分を体内に蓄えており、生後7~13日の、栄養価がもっとも高いオスの蜂の子のみが使われているのが特徴です。
現地では採取したアピラルニルはハチミツのほか、花粉と混ぜて食べられることもあり、ほどよい甘みと濃厚さが味わえるといいます。